の皿を破《わ》られたんと、おんなじことさ」
小藤次は、自分の言葉から、一人の名人を台なしにしたことに、責任を感じた。
「待ってろ、庄吉」
小藤次が、行きかけると、若い者が、走り出した。
「逸《はや》まっちゃならねえ」
小藤次は、その後方へ、注意して、自分も走り出した。
小太郎は、小半町余り、行っていたが、走り寄る足音に、振向くと、一人の男が、鋸を構えて
「待てっ、おいっ」
その後方からも、得物をもった若い者が、走って来ていた。小太郎は、眼を険しくすると、一軒の家の軒下へ、たたっと、走り込んで、身構えした。
「あいつ――何んとか――」
走りながら、小藤次が呟いて
「俺んとこの、家中の奴だ。何とかいった――軽輩だ」
と、自分の横に走っている若者へいった。
「御存じの奴ですかい」
そう答えながら若い者は、小太郎の前で、走りとまった。
「小藤次氏」
岡田小藤次は、仙波小太郎の顔に見覚えのあるほか、姓も、身分も知らなかったが、小太郎は、お由羅の兄として、家中の、お笑い草として、大工上りの小藤次利武を、十分に知っていた。
小藤次は、そういって微笑している小太郎の顔を睨みつけな
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