るなら、首根っ子の骨を折ってくれ」
庄吉は、じりじり近づいた。手首がやけつくように、痛んだ。
(早く手当すりゃ、癒らぬこともあるまい)
と、思ったりしたが、意地として、後へ引けなかった。印籠一つと、かけ代えに、商売道具を台なしにされたと思うと、怨みと、怒りとで、いっぱいになってきた。
「返事をしろ、返事をっ」
小太郎は、黙って、歩き出した。かっとなった庄吉は
「うぬっ」
小太郎の髻を、左手で、引っ掴もうと、躍りかかった刹那、小太郎の体が沈んだ。延びた左手を引かれて腰を蹴られると、たたっとのめり出ると、膝をついてしまった。
「大変だ――若旦那」
表に立って、庄吉の仕事振りを見ようとしていた若い者が、叫んだ。
「何うした?」
「やり損って――あっ、突き倒されたっ」
二三人が、跣足《はだし》のまま、土間へ飛び降りて、往来へ出た。往来の人が、皆、庄吉の方を眺めていた。
「喧嘩だっ」
「やられやがった」
口々に叫ぶと、走り出した。残っていた若者と一緒に、小藤次が、往来へ出ると、庄吉が、起き上ろうとしているところであった。侍は、早足に、歩いて行っていた。
「生《なま》なっ」
小藤
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