左手を、小太郎の頬へ叩きつけようとした時、何かが、胸へ当ってよろめいた。踏み止まろうと、手を振って、足へ力を入れた刹那、足へ、大きい、強い力が、ぶっつかって――青空が、広々と見えると、背中を、大地へぶちつけていた。手首の痛みが、全身へ響いて、庄吉は、歯をくいしばって、暫く、動こうにも、動けなかった。
(取乱しちゃ、笑われる)
ちらちらと、富士春の顔が、閃いた。
「野郎っ――殺せっ」
そうとでも、怒鳴るより外に、仕方がなかった。足で、思いきり蹴った。起き上ろうとすると、手首が刺すように痛んだ。
「殺せっ」
庄吉は、首を振った。小太郎の後姿が、三四間先に見えた。
「待てっ」
左手をついて、起き上ろうとして、尻餅をついたが、すぐ、飛び起きて
「やいっ」
走り出した。背中も、髻《もとどり》も、土埃にまみれて、顔色が蒼白に変り、脣が紫色で、眼が凄く、血走っていた。小太郎が、振向いて
「用か」
庄吉は、小太郎の三四尺前で、睨みつけたまま、立止まった。
「元の通りにしろっ。手前なんぞに、なめられて、このまま引込めるけえ。元通りにするか、殺すか、このままじゃあ、動かさねえんだ――おいっ、折
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