の方で称するのであった。
玄白斎は、岩へ、顔を押当てるようにして、岩から、何かの匂を嗅いでいたが
「和田、嗅いでみい」
仁十郎は、身体を岩の上へ曲げて、暫く、鼻を押しつけていたが
「蘇合香?」
と、玄白斎へ、振向いた。玄白斎は、ちがった方向の岩上を、指でこすって、指を鼻へ当てて
「竜脳の香《におい》もする」
和田は、すぐ、その方へ廻って鼻をつけて
「そう、竜脳」
と、答えた。
「これは、塩だ」
玄白斎は、白い粉を、岩の上へ、指先でこすりつけていた。仁十郎は、谷間へのぞんだ方の岩の下をのぞいていたが、急に、身体を曲げて、手を延した。そして、何かをつまみ上げて、玄白斎へ示しながら
「先生、蛇の皮が――」
と、大きい声をした。玄白斎は、険しい眼をして
「人髪は?」
仁十郎は、あたりを探して
「髪の毛はないか」
二人は、向き合って、暫くだまっていた。玄白斎は、焚火をしたため、黒く焼けている岩肌を眺めていたが
「和田、この岩の形は?」
「岩の形?」
「鈞召《きんしょう》金剛炉に似ているであろうがな」
和田は、ちらっと岩を見て、すぐ、その眼を玄白斎へ向けて
「似ております」
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