ろだよ」
玄白斎は、じっと、犬を眺めていたが
「よく、葬ってやるがよい」
玄白斎は、仁十郎に目配せして、また、草叢をたたきながら歩き出した。
「気をつけて行かっし――天狗様かも知れねえ」
猟師は、草の中に手をついて、二人に、御叩頭をした。
細径は、急ではないが、登りになった。玄白斎は、うつむいて、杖を力に――だが、目だけは、左右の草叢に、そそがれていた。小一町登ると、左手に蒼空が、果てし無く拡がって、杉の老幹が矗々《すくすく》と聳えていた。そこは狭いが、平地があって、谷間へ突出した岩が、うずくまっていた。
大きく呼吸《いき》をして、玄白斎は、腰を延すと、杉の間から、藍碧に開展している鹿児島湾へ、微笑して
「よい景色だ」
と、岩へ近づいた。そして、海を見てから、岩へ眼を落すと、すぐ、微笑を消して、岩と、岩の周囲を眺め廻した。
「焚火を、しよりましたのう」
仁十郎が、こういったのに答えないで、岩の下に落ちている焚木の片《きれ》を拾う。
「和田――乳木であろう」
と、差出した。和田は手にとって、すぐ
「桑でございますな」
乳木とは、折って乳液の出る、桑とか、柏とかを兵道家
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