は、薬よりも、看護じゃ。こういう幼児には、余計にそうじゃで――」
七瀬は、斉彬の称《ほ》めてくれる言葉を、責められているように聞いた。寛之助の死は、斉彬にとって、後嗣《あとつぎ》を失う大事であると共に、七瀬にとっても、仙波の家を去らなければならぬ大事であった。夫の肩身を狭くし、自分を不幸にさせ――と、思った時
「ひーっ」
と、寛之助が叫ぶと、斉彬に握られている手も、身体も、力の無い脚も、一度に、病児とは思えぬ程の力で突上げ、顫わせた。脣は、痙攣《けいれん》して、眼は大きく剥き出し、瞳孔を釣上げてしまって、恐怖と、その苦痛とで、半分気を失っているような表情であった。
「寛之助っ」
斉彬は、不意に、力いっぱいに振切ろうとした寛之助の痩せ細った手を握りしめて、がたがた顫えている子供の身体を、片手で軽く押えながら
「父じゃ――見てみい、父じゃ」
と、顔を、幼児の眼の上へ、押しつけた。
「見えんか――寛之助っ、父じゃ」
斉彬の声は、沈黙している部屋中へ響いた。涙声であった。
「七瀬――おそわれると――いつもこうか?」
「はい」
寛之助の脣は、わくわくと開いたり、閉じたり、身体は烈しく
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