を混じたものを、その上へふりかけた。小さく、はぜる音がした。火花がとんで、すぐ燃え上った。
 侍は、一礼して退くと、索縄《さくじょう》と、刀とをもって、お由羅の坐っている壇の下、後方へ、同じように指を重ねて坐った。そして、低い声で
「東方|阿※[#「門<((企−止)/(人+人))」、第3水準1−93−48]《あしゅく》如来、金剛忿怒尊、赤身大力明王、穢迹《えじゃく》忿怒明王、月輪中に、結跏趺坐《けっかふざ》して、円光魏々、悪神を摧滅す。願わくば、閻※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]《えんた》羅火、謨賀《ぼか》那火、邪悪心、邪悪人を燃尽して、円明の智火を、虚空界に充満せしめ給え」
 と、祈り出した。
 寛之助の病平癒の祈祷をするといって、この護摩壇を設けたのであったが、三角の鈞召火炉は、調伏の護摩壇であった。今、祈った仏は、呪詛の仏であった。
 壇上の品々――人髪、人骨、人血、蛇皮、肝、鼠の毛、猪の糞、牛の頭、牛の血、丁香、白檀、蘇合香、毒薬などというものは、人を呪い殺すために、火に投じる生犠の形であった。
 黒煙が、薄く立昇ると、お由羅は、次々に護摩木を投げ入れ、塩を振りかけ、
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