ら?――夢ではない)
と、思った瞬間――部屋の中が、急に、四方から狭められたように感じられてきて、畳が、四方の隅から、じりじりと、押上がってくるように思えた。
七瀬の手は、いつの間にか、守り刀の袋へかかっていた。眼は、恐怖に輝きながら、廻転している霧を、睨みつけていると、霧が気味悪い、青紫色にぎらぎらと光るようにも見えたし、光ったのは眼の迷いであるような――そして、自分の眼が、何うかしていると、じっと、眺めると、その霧の中に凄い眼が、それは、人間の眼であったが、悪魔の光を放っている眼であった。
「あっ」
と、叫んだが、声が出なかった。
(これが、寛之助様に――)
と、思ったが、手も、足も、身体も、動かなかった。急に、青紫色の光が、急速度で、廻転すると共に、その光る眼の周囲に、人の顔らしいものが現れたように感じた。痩せた、鋭い顔であった。
七瀬は、動かぬ手を、全身の力で動かそうとしながら、一念を凝《こ》めて
(こいつを、退散させたら――)
と、全精神力を込めて、睨みつけた瞬間、寛之助が
「ああっ」
と、叫んで、両手を、蒲団から突き出すと、顫えたまま、左右へ振って
「こわいっ
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