体が、がたがた顫えて、瞳孔が大きく据ってしまって、いじらしい程、恐怖の怯えを眼にたたえながら、侍女へ抱きついて、顔を、その懐へ差込んだ。
「夢でございますよ――何も、おりませぬ」
と、侍女は、怯えている澄姫を、正気にしようとしたが、澄姫は、がくがく顫えて、しがみついたままであった。
英姫は、余り、いじらしいので、自分が夜を徹して、澄姫の枕許にいたが、澄姫は、だんだん、夜になるだけにでも、怖れだしてきた。昼間の、陽の明るい折
「寝てから、何を、見るの?」
と、聞くと、それだけでさえ、もう、顔色を変えて
「鬼――」
と、答えると、それ以上のことは、怖ろしくて、説明もできないようであった。そして、だんだん衰弱して行った。
左源太は、その澄姫の死を想い出すと、可愛盛りの寛之助を捨てておけなかった。もう一度、あの恐怖に怯えさせるかと思うと、斉彬の冷淡さに、腹が立ってきた。
「寛之助様、ばかばかしゅうござりませぬが」
と、いうと、斉彬は、ホンフランドの「三兵話法」を、読みながら、
「あれは、生来弱い」
「しかし、御病状が、異様でござります」
「病気のことは、医者に任せておけ」
「医者の
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