をかつかつ反響させて、小走りに馬が、近づいて来た。誰か、乗っているにちがいなかったが、和田は、町人か、百姓なら、話をして、借りて行こうと、疲れた腰を上げて、葭簾《よしず》の外へ、一歩出た。
「先生」
玄白斎が、木箱をがたがたさせながら、半分裸の馬子を、馬側に走らせて、近づいて来た。
「馬がないか」
「一疋も、ござりませぬ」
「馬子」
馬子は、呼吸を切らして、玄白斎を、見上げただけであった[#「あった」は底本では「あつた」]。
「もう一疋、都合つかぬか」
馬も、馬子も、茶店の前で止まった。馬子は、胸を、顔を、忙がしく拭いて
「爺さん。四疋とも、行ったかえ」
「四疋とも、行ったよ」
「旦那、ここには、四疋しか居りませんのでのう」
和田は、馬側へ近づいて
「一足ちがいで、家中の者が、四人で――」
と、まで云うと、
「今か――」
玄白斎が、大きい声をして、和田を、鋭く見た。和田は、玄白斎のそうした眼を見ると同時に
(そうだ。猟師を殺して、一足ちがいに)
そう感じると、すぐ
「爺――その内の一人に、背の高い、禿げ上った額の、年齢三十七八の侍は居らなんだかの」
玄白斎は、手綱を控え
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