》っ走《ぱし》り、急いで戻ってくれぬか」
和田は、何か玄白斎が、非常の事を考えているにちがいない、と思うと、ほんの少しでもいいから、それが、何《ど》んなことだか、知りたかった。それさえ判れば、自分にも多少の智慧もあり、判断もつくと思った。それで
「御用向は?」
「千田、中村、斎木、貴島、この四人の在否を聞いてもらいたい――居ったら、それでよい。もし居らなんだ節は――」
玄白斎は、髯をしごきながら
「何時頃から居らぬか?――何処へ行ったか? 誰と行ったか?――それから、便りの有無――よいか、何時、誰と、何処へ行ったか? 便りがあったと申したなら、何時、何処から、と、これだけのことを聞いて――」
玄白斎は、小首を傾けて、まだ何か考えていたが
「一人も、もし、居らなんだなら、高木へ廻って、高木を邸へ呼んでおけ。それから」
玄白斎は、和田の眼をじっと見ながら
「何気なく、遊びに行ったという風で、聞きに行かんといかん」
玄白斎は、こういって、静かに左右を見た。そして、低い声で
「牧は斉彬公を調伏しておろうも知れぬ」
和田は、口の中で、はっといったまま、うなずいた。
「わしの推察が当っ
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