を登用して、対外問題に当らせようとして、斉興の隠居を望んでいた。斉興が斉彬をよく思わないのは、当然である。
そして、斉興も、家中の人々も、斉彬が当主になっては、また、重豪の轍を踏むであろうと、憂慮した。木曾川治水の怨みを幕府へもっている人々は、幕府が、斉彬を利用して、折角の金をまた使わせるのだとも考えた。
そうして、斉彬の生母は死し、斉興の愛するお由羅《ゆら》が、その寵《ちよう》を一身に集めていた。そして、お由羅の生んだ久光は、聡明な子の上に、斉興の手元で育てられた。
(斉彬を廃して、久光を立つべし)
それは、斉彬の近侍の外、薩藩大半の人々の輿論《よろん》であった。玄白斎は考えた。
(斉彬を調伏して、藩を救う――然し――)
老人は、山路を、黙々として、麓へ急いだ。
黙々として歩いていた玄白斎が、突然
「和田」
と、呼んで立止まった。和田が、解《げ》しかねる玄白斎の態度を、いろいろに考えていた時であったから、ぎょっとして
「はい」
と、周章《あわ》てて、返事して、玄白斎の眼を見ると
「その辺に、馬があるか、探してのう」
こういいながら、腰の袋から、銭を出して
「一《ひと
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