も、中津(奥平大膳太夫)も、宇和島(伊達宗城)と一緒に江戸へ出て、斉興公の隠居を願い出るし、閣老も、肚は、そうときまっているのじゃから、いよいよ斉彬、御家督になってから、一挙にして、奸物共を、殺滅してもおそうは無い。篤之助も、無事に育つようであるし、吾々の企ても、薄々存じているからには、もう此上、そう易々と、不逞の振舞も、しにくかろう。春と申しても、つい、半月か、一月の間じゃで――」
「御尤もでござりまする――それでもう少しにて、終ります故――
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一つ、将(将曹)之、調(調所)より勘弁之よし、尤に候、近(近藤隆左衛門)等の如く悪み候而は不宜《よろしからず》――
[#ここで字下げ終わり]
と、まで、読んできた時、襖のところの鈴が、からからと鳴った。吉井が、手を叩いた。
「誰か、参ったかの」
赤山が、襖の方へ、振向くと、襖も開けないで、誰かが
「篤之助様が、又、お亡くなりになりましたぞ。只今、江戸表より、野村喜八郎様、到着なされました」
と、叫んだ。
「亡くなったっ」
井上出雲守が、真赤になって、半分立上りかけて、又坐った。
「入っても宜しゅうござりましょうか。野村氏も、一緒に――」
と、襖の外の若侍が、いった。
「よい」
靱負が答えた。襖が開くと、旅姿のままで、畳敷の廊下の、暗いところへ、野村が、平伏していた。若侍は、人々に、一礼して去ってしまった。
「これへ参れ。真実かっ」
「はっ」
野村は、お叩頭をしてから、膝で歩いて、敷居を入ったところへ坐ると、襖をしめた。そして
「見苦しい姿にて、御無礼仕りまする」
と、人々へ、平伏した。
「呪殺か」
「はっ、そのように、心得まする」
野村は、手をついたままであった。人々は、暫く、沈黙していた。
「赤山殿」
近藤が、呼びかけて、眼が合うと
「春まで、待てませぬな」
「うむ」
「明日にも、手筈通り、取りかかりますか」
人々も、赤山も、頷いた。そして、又、暫く、一座は、黙って考え込んでいた。
「牧は、討てぬか、未だ」
「仙波の倅が、しきりに探しおりますが」
「倅の外に、誰が、討取りに――」
「益満など、とんと、冷淡になりましたとの噂でござりまする」
「益休《ますきゅう》が?」
「玄白斎の弟子など、何を致しているのか、牧一人ぐらいを討つに――」
「行方が判りませぬとのことにて――」
「江戸の奴等は、腑甲斐がない。奸党討伐は、吾々にて致そう」
と、高崎がいった。
「将曹、平、仲等が、殿と共に、帰国中を幸い、お由羅と共に、一挙に討取ろう。そして、久光公へは、誰かが参って、事の次第を、よく申し上げた上にて、お首《しるし》を[#「お首《しるし》を」は底本では「お首《おしるし》を」]頂戴しよう。もう、一時たりとも、猶予ならん」
「そうじゃ、奸者共も、薄々と、吾等の企てを存じておる上は、何をしでかすか計られんから、手筈通りに、豊後の邸は、大砲にて、打っ払い、将曹の邸は、取巻いて、鏖殺《おうさつ》してくれよう。高木市助が、参っておろうが、此奴に、すぐ、大砲の引出し方を命じて、肱岡に、吉井、土持、山内等が将曹へかかる」
高崎は、静かに、だが、決心と憤慨とに充ちた口調で、こういった。
「それでは、至急に、若者達を集めて、手筈の次第を申し聞かそう」
山田が、立上った。
「夜更けゆえ、提灯などつけては、目立っていかん。それを心得て、忍び忍びに、集まって参るよう、申しつけてもらいたい。こちらから参る者も、十分に、気をつけて、察しられぬよう廻るように――」
赤山が、山田へ、注意した。
「十分に――」
と、山田が頷いて、出て行った。
「何んという無残なことを致す輩か」
井上出雲守は、腕組をして、俯向いたまま、呟いた。
「師を呪殺し、主君を呪殺して――」
暫く、誰も、物をいわなかった。赤山が
「野村、疲れておろう。退って、休憩するがよいぞ」
「はっ、お差支えなければ、御役に立てて頂きとう存じまするが」
と、野村は、じっと、赤山を見た。
近藤隆左衛門の邸の、質素な――だが、頑丈な門を出た、和田仁十郎と、高木市助との二人は、足早に、急ぎながら
「こう早う、きまろうとは思わなんだ。先ずもって、目出度かりける次第なり、じゃ」
「うむ」
「大砲庫の鍵は、誰が、あずかっておる」
「郷田じゃ」
「お為派か?」
「うむ」
「弾薬庫は?」
「それを考えておるが――」
「お由羅派か?」
「寺本じゃが、あいつの心底が判らんで――郷田も、この間、話しておったが、何うも、企てを聞かしてええか、悪いか――もし、二人で行って、鍵を渡さぬか、とやこう申せば、打った斬るの外に無いが――上手に、欺したら――」
「斬れ、斬れ」
「うむ。なまじ、不愍《ふびん》をかけて、欺し損じでもすると、面倒じゃ
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