の損になる」
 と、いって、刀をさして、立上った。
「それでは、益満に」
「ああ、西郷に」
 四人は、関所の側へ、三人は、元の道の方へ
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ざんば岬を、後に見て
袖をつらねて、諸人の
泣いて、別るる、旅衣
[#ここで字下げ終わり]
 三人が、声を合せて唄った。そして、それが、終ると、四人が
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渭城《いじょう》の朝雨、軽塵を※[#「褻」の中央が「邑」、第4水準2−88−23]《うるお》す
客舎青々、柳色、新なり
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君にすすむ、更に尽せ一杯の酒
西の方陽関を出づれば故人なからん
[#ここで字下げ終わり]
「成功をしてくれ」
「後を頼むぞっ」
「斉彬公のために」
「天下蒼生のために」
 三人と、四人とは、振返り、振返り、同じ唄を、かれ等の別れの小唄を
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ざんば岬を、後にみて
袖をつらねて、諸人の
[#ここで字下げ終わり]
 曲り角へ来た時
「有村っ」
 有村が、振向いて
「五代っ」
 と、叫んだ。そして、手を挙げて、各々の名を呼んだ。そして、一寸、佇んだ、が、すぐ、山蔭へ――
「おーい」
 と、呼ぶと
「おーい」
 と、答えた。別離の悲しみが、胸いっぱいであると同時に、未来に対する希望が、明るい金の烏《からす》の形となって、若者の、軽輩の青年の頭の中を、狂った如く、飛び翔っていた。
(倒せても、倒せなくても、徳川を倒さずには、おくものか。斉彬公が、そう仰しゃっていた)
(取れても、取れなくっても、天下を取らずにおくものか。斉彬公が、そう仰しゃっていた)
(やれても、やれなくっても、吾等軽輩はやらずにおくものか。斉彬公が、そう仰しゃっていた)
 行く者は、東へ、送る者は、城下へ。それは、長い距離を離れていたが、心は一つであった。斉彬の死によって、一新した心は、斉彬の遺志を展《の》べさすために、十分の熱と、力とをもっていた。
 関所を抜けたらしく、四人の姿は、牧を追って山内と闘った道の辺に、小さく見えて来た。もう、声は届かなかったが、お互に、手を挙げ、手を挙げしながら――遠ざかり、曲り、そして、別れてしまった。



底本:「直木三十五作品集」文藝春秋
   1989(平成元)年2月15日第1刷
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2007年3月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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