の所存でござる。島津壱岐殿も、牧の筆と御鑑定になりましたが、一応、調伏の有無を、御取調べ願いたいと――内密の用とはこのことでございます」
名越は、声を少しふるわせていた。将曹が
「左源太」
と、叫んだ。
左源太は、少し怒りを含んだ眼で、将曹に膝を向けた。将曹も、左源太を睨みつけながら
「この形代は、一体どこから、持って参ったな」
「申し上げました[#「申し上げました」は底本では「男し上げました」]通り――御病間の床下から――」
「如何して、取出した?」
「如何してとは?」
「床下へ、忍びこんだので、あろうな」
仙波も、名越も、暫く黙っていた。忍び込んだ、といえ一ば、何故忍ぶべからざるところへ、忍びこんだと、逆にとがめられても、弁解はできなかった。然し、名越は、強い、明瞭とした調子で
「いかにも――御床下へ、忍び込んで、手に入れました」
小藤次も、伊集院も、名越の大胆な答えに、じっと、顔を見つめた。
「誰が、許した――誰が、忍び込めと、許した」
名越は、眼の中に冷笑を浮べて
「許しを受ける場合もあれば、受けんと忍ぶ時も、ござろう。御家の大事に、一々――」
将曹が
「黙れっ、許しが無くば、重い咎めがあるぞっ」
「あはははは、命を捨てての働きに――あはははは。仙波も、某も、とっくに、命は無いものと覚悟しておる。御家に、かかる大不祥事あって、悪逆の徒輩が、横行致しておる節、かような証拠品を手に入れるに、一々、御重役まで、届け出られようか、ははは。いや、御貴殿が、この品を軽々しくお取扱いなさるなら、最早それまで。某等は、某等として、相当の手段をとって、飽くまで、牧殿を追及する所存でござる。貴殿御月番ゆえに、一応の御取調べ方を御願いに参りましたが、思いもよらぬ御言葉。この大事を取調べようとせず、逆に、当方を御咎めになるらしい口振り、裁許掛ならいざ知らず、月番の御役にしては、ちっと役表に相違がござろう。その品が偽り物ならば、偽り物、真実ならば真実と、一通り、掛役人にて取調べされるよう御指図なさるのが、月番の貴殿の役では」
名越は、大きい声で、一息に、ここまで喋ると、将曹が、真赤になったかと思うと
「黙れっ、黙れっ」
と、叫んだ。
「無礼なっ。何を、つべこべ、講釈を披《ひろ》げるか? かようの、あやふやな人形を、証拠品などと、大切そうに――」
「奇怪なっ、この人
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