り》でもつてゐる人《ひと》である。
 その上《うへ》に趣味《しゆみ》が廣《ひろ》く――例《たと》へば最近《さいきん》、その三上《みかみ》を對手《あひて》として、いい齡《とし》をしながら(失言《しつげん》?)將棋《しやうぎ》を稽古《けいこ》しかけたりしてゐる。そして、一《ひと》かど、考《かんが》へ込《こ》んで、眞面目《まじめ》な顏《かほ》をして、一寸《ちよつと》、待《ま》つて頂戴《ちやうだい》、待《ま》つて頂戴《ちやうだい》つたら、と喧嘩《けんくわ》してゐる。また、その趣味《しゆみ》の澁《しぶ》い例《れい》を擧《あ》げると、三上《みかみ》がその著名《ちよめい》なる東京市内出沒行脚《とうきやうしないしゆつぼつあんぎや》をやつて、二十日《はつか》も歸《かへ》つて來《こ》ないと時雨《しぐれ》さんは、薄暗《うすぐら》い部屋《へや》の中《なか》で端座《たんざ》して、たゞ一人《ひとり》双手《もろて》に香爐《かうろ》を捧《さゝ》げて、香《かう》を聞《き》いてゐる。何《なん》のためだと思《おも》ふと、氣《き》を靜《しづ》める妙法《めうはふ》で――露骨《ろこつ》に、これを説明《せつめい》すると、やきもち靜
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