室で今一方は身分ある客の為めに充てられて居た。……仕切りと云っても只棒を二本立てて、それに帷の代りに、フォルチュナーテの古い、色の褪せた上衣を渡したものに過ぎなかった。此の二本の棒……は嘗て昔は金箔を施してあったものだが、今ではもう大分前から方々に罅《ひび》が入ったり剥げたりして居る。
 仕切布で隔てられた清潔な方の室では、錫の鉢と幾つかの杯を載せた卓を前に控えて、此の家にたった一つしかない幅の狭い破れた寝台の上に、羅馬軍第十六連隊第九中隊長マルクス・スクーヂロが横になっていた。……同じ寝台の足下の方に、さも窮屈らしく恭々《うやうや》しげな恰好をして坐っていたのは、第八、百人隊長のブブリウス・アクヴールスという喘息《ぜんそく》持で赭《あか》ら顔の肥満漢で、天辺のつるり[#「つるり」に傍点]と剥げた頭には疎らな胡麻塩の毛を後ろの方から両鬢《りょうびん》へかけて撫で付けている。少し離れた床の上では、十二人の羅馬兵が骸子《さいころ》を弄《もてあそ》んでいる。
[#ここで字下げ終わり]

 ここで兵士の描写が出ているが、後半に出て来る羅馬軍と波斯《ペルシャ》軍との戦争は、頗《すこぶ》る興味のあ
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