、小説そのものも、事件それ自身も、当時の人々の未知のものであり、無経験のものであり、空想だにもしなかったものであった。換言するならば、当時、日本の文芸にとって、全く新しき境地であり、開拓地であったのである。宜《むべ》なり、当時の新らしき文学を理解し、信奉する、主として若き、新進気鋭の徒は、悉《ことごと》くその方に走ったのであった。
「地底旅行」「海底旅行」「三十五日間空中旅行」等の、当時の人々の好奇心を煽り、空想力を楽しましめるに充分な読物が現れ、
森田思軒は、「大東号航海日記」「大|叛魁《はんかい》」「十五少年」を書き、
松居松葉は、「鈍機翁冒険譚」を発表し、
菊池幽芳は、「大宝窟」「二人女王」を書き、
幸田露伴は、「大氷海」を、
桜井鴎村は、「三勇少年」「朽木舟」「決死少年」を、
そして、
押川春浪は、「武侠艦隊」「海底軍艦」「空中飛行艇」を発表して、世の喝采を博した。
その他、
スタンレーの「アフリカ探険記」、キャピテン・クックの「世界三週航実記」、「ロビンソン・クルーソー」、「不思議の国巡廻記」「アラビアン・ナイト」等が翻訳された。
かくの如く、冒険、乃至《
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