水定吉」、「九寸五分」、「因果華族」等が書かれた。
併し、それ等創作探偵小説の愚劣さ加減と来ては、言語道断なものがあった。即ち、新聞記事中の事件は、直ちに小説に書きあらためられるのであって、例を挙げるならば、近頃の説教強盗といったような、当時世間を震撼《しんかん》させたピストル強盗清水定吉とか、稲妻小僧坂本慶次郎とかは、忽ち探偵小説となった。だから、探偵小説を創作すると云うよりは、寧ろ新聞記事の小説化と云った方が妥当であろうと思う。そして加之《しかのみならず》、事実を興味深く粉飾するために、何の小説にも一様に、護謨《ゴム》靴の刑事と、お高祖頭巾《こそずきん》の賊とが現れ、色悪と当時称せられた姦淫が事件の裏に秘《ひそ》んでいるのに極まっていた。
以上のような、程度の低い、探偵小説は、やがて、当然行き詰らざるを得なかった。そうして、それに代って、冒険小説が勢力をもち始めた。
此処に冒険小説とは、大人子供の如何に拘らず、興味深く愛読出来る冒険談、或は探険談と呼ばるべき種類のものを指すのである。それ等探険小説、或は冒険譚というものは、日本の嘗ての要素に全然無かった種類のものを含んでおって
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