く、より一般化して、変態的ならざる、正常的な発達を遂げたのであった。
 そして、最初には、何よりも大衆に喜ばれ、理解され易い種類のものが翻訳され初めた。即ち「探偵小説」と「冒険小説」とである。そして、その当初に於ては、それ等探偵小説や、冒険小説の読者は、宣伝文学の訳者と同じ人の手になったのであった。
 主なる例を次に挙げよう。
 森田思軒の「探偵ユーベル」、「間一髪」、原抱一庵の「女探偵」、徳冨蘆花の「外交奇譚」、黒岩涙香の「人外境」等。
 では、何故、当時探偵小説が一般に喜ばれたのであろうか、と云うと、憶うに当時は、尚自由民権の叫ばれた直後であり、仕込み杖の横行した時代であったが故に、自然一般の空気がかかる風潮に影響されていて、従って探偵的興味が強く人心に働き、かかる情態に適応したものであって探偵小説が流行したものの如くである。
 現代を、探偵小説流行の第二期とするなら、当時は、方《まさ》にその第一期に当っていると云い得るだろう。その翻訳小説の盛大を極めたのと同時に、探偵小説の創作も、盛んに行われたのであった。
 例えば、「お茶の水婦人殺し」だとか、「大悪僧」だとか、「ピストル強盗清
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