遊里と酒場

 いつかの「文藝春秋」に、私が酒場で十円のチップを置く、と書いてあったが(その代り、一文も置かぬときもあるとも、書いてあった)※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]である。勘定が、三円|某《なにがし》だから、四五人集まって来たレデー達に、十円出して「釣は入らない」というだけで、三円が、六円になっても、矢張り十円しか出さない(だから、私にサービスしてくれるレデーは、成るべく、酒をのまさないようにする。その方が、私の健康の為にもいいし、彼女の収入の為にもいい)。
 それから、美人座へ、時々行く外(多分美人座では、私が、千早昌子を好きだと考えているであろうが、酒場では、好きでなくとも好きな一人を仮定しておくことは酒場交際法の第一課である。誰も好きでないと云い乍ら、度々行く奴は、馬鹿野郎でしか有りえない)、殆ど、私は、外の酒場へ行ったことがない。将来、行っても、私は、矢張り、十円しか出すまい。
 何うも、私は、昔から、この十円の遊興がすきであるらしい。今でも、新橋へ、年に一度位、遊びに行くが、九時から行って、妓一人で矢張り十円である。プラトン社在勤当時、九郎右
前へ 次へ
全69ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング