実によく、大阪の女は食べた。私の子供時分の芝居に於て、就中、旧文楽座に於て――そして、昆布をしがんだ口臭は、決してシックなものではない。何うもキッス以前の匂いだ。キネマで、チューインガムの引っ張り合は、恋人同士によくあるが(私は、キネマを三年位見たことはないが、多分あるだろうとおもう。なかったら――やってみるがいい)、昆布は、少し粘々《ねばねば》しすぎる。とにかく、昆布は、いくらか、大阪人の健康を助けているだろう。私の母なんかも、昆布をしゃぶるには人後に落ちた事がない。少ししゃぶりすぎたので、その子の頭が少し早く禿げるのだろう。ヨードは髪毛を増すというのが、何うして、私だけは、禿げるのだろう?

  食べ物

 大阪の料理は、殆ど東京を征服した。東京料理の面影を伝えているのは、八百善位のものだろう。話に聞くと、大阪の板前は既に百人近く、東京へ行ったというからえらいものである(大抵この位で料理論などは終っていいのだが、どうも私の知識は沢山あるのでもう少し話をしたい)。
 その大阪の料理人も所謂、料理通、食通がる人々も「大阪料理は成るべく生のままの味を食わすんで――」と、自慢らしく云って「
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