宿へ、どんどんと梯子を踏鳴して飛んで上ってきた。
「一寸表へ」
「見つかったか?」
と、云ったが荷から取出す脇差。顔色が変る。
「何処《どこ》だ」
目で知らせる無言の二人。
「弥五郎待っていろ」
と、不審がって見送っている女中をあとに寄席へきてみると、川中島の大合戦、外まで洩れてくる。
「さっと吹払う朝風に、霧晴れやったる、川中島を見渡せば、天よりや降ったりけん。地よりや湧きたりけん。大根の打懸纏《うちかけまと》いを押立てて一手の軍の寄せ来たるは、これぞ越後名代の勇将甘粕備前守と知られたり」
木戸番うつむいて煙草ばかり喫っている。
「へイ、有難う」
木札二枚、とんと置く奴を引つかんで、
「札を頂きます」
無言で渡して、そっと暖簾の外から盗見する。
「どうか御入りなすって」
と、云ったが聞えない。聞えたが、聞えたきりで耳を抜けてしまった。
「もし申し兼ねますが、一寸どうか。へイ、其処は入口で御座いますので」
「ああ、いや御免」
ぷいと出てしまう。
四
喜遊次が高座を降りて、楽屋――と云っても書割のうしろで坐る所も無い。碌に削りもしない白木を打交《うちちが》
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