い所へ、錠がかかって居たからかたかたと音を立てたが、それと共に、
「誰だ」
という家来中川十内の声、刀を取直して壁へぴったり背をつける。
「旦那様?」
暫く声がしなかったと思うと、次の室《へや》の襖の開く音。九郎右衛門一大事と、そろそろと横に歩みつつ廊下へ出て雨戸を開こうとする時、
「おっ――曲者《くせもの》っ」
どんと身体《からだ》を雨戸へ当てて、庭へ飛降りる。戸の上へ転ぶ、そのはずみ刀を雨戸へ突刺してしまったが、抜取るひまがない。両手の空いたのを幸、塀を掻昇って一目散に逃げてしまった。
二
十内、齢十七歳、捨ててあった刀を証拠に森の城主――豊後国――久留島《くるしま》信濃守《しなののかみ》光通《みつのぶ》に敵討願いを軍右衛門が一子六歳になる清十郎と連署で願出た。
「奇特の志《こころざし》天晴れである。軍右衛門、妻を奪われ、抜きも合さず姦夫の為に殺害せらるる段、年寄役ともあろう者として不届至極、本来ならば跡目断絶させるべき所、其方《そのほう》の志にめで、又家中の旧家の故を以って、特に清十郎にそのまま恩禄を下しおこう。又敵討の儀は清十郎十五歳に成長するまで待って討
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