》の倅《せがれ》であったからである。甚七が村|外《はず》れへかゝった時、二人の手先が競いかゝった。それを倒して村へ入った時、大勢の者に取巻かれた。
大勢と云っても、大勢の八分は村の人間であった。近づけば避け、走ると追う連中にすぎなかった。然し半鐘の音と共に、近在から無数に繰出してくる百姓には、甚七も辟易《へきえき》してしまった。そしてかくれるより外に道が無かったから、木立の茂りから大樹の上と巧に身を躍《おどら》して夜に入るのを待った。
丁度その最中、お新が通りかゝった。彼女は、それが甚七であると知ると共に、近づこうとしたが村人は押えて一足も動かさなかった。その内に甚七は山へ入ってしまった。お新は三味を抱いて山へ入った。そして、甚七のよく知っている
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お前の袖とわしが袖
合せて唄の四つの袖
露地の細道駒下駄の
胸とゞろかす明けの鐘
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を弾き乍《なが》ら山を彷徨《さまよ》うた。勿論、この計《はかりごと》は成就した。山の夜更けの三味の音は、甚七の注意を牽《ひ》くに充分であった。
お新の近くへ、礫《つぶて》の落ちるのがつづくと共にお新は悟っ
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