は軽々しく信じられぬ。」
 と云った。お新は自分の苦心が、この人々に判らないかと思うと、自分の商売や、世の中が恨めしくなった。そして
「お先へ彦根へ。」
 と云って立上った。お俊は、自分より先に甚七に逢わしたくなかったので
「彦根は※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》、入れば召捕えられる所へ誰が参りましょう。」
 と、云うと共に
「お俊、お身は甚七に内通したな。」
 と、きっとやられた。それを聞くと同時にお新は表へ走り出た。
「内通?――そう仰っしゃれば、誰かに来馬様を下手人に――」
「黙れ、不義者。」
「不義は致しません。」
「不義も同然だ、現在夫の敵を――」
「敵で無い事は今の女も――」
「喧《やか》ましい。お身と同道はお断りじゃ。」
「兄さん、それは余り――」
「いや、言語道断の女だ。許しておけぬ。」
 お俊は仕方が無かったしお新に代って、山田の事も知らせたかった。そして淋しい懐中を心細く感じつゝ
「女の一念。」
 と、思って二人に別れた。

[#8字下げ]六[#「六」は中見出し]

 網は可成りに張られていた。甚七の邸で殺された一人が郡奉行《こおりぶぎょう
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