「来馬。」
と、声がした。
「誰だ。」
と云うと共に、引組まれた。だが、何うにか抜けてひた走りに、一刻でも早くお新に、それからお俊に――そう思ってもう大丈夫と信じていても猶《なお》走っていた。
「真実《ほんとう》の下手人を探す為め、彦根へ立戻候。」
という貼紙を、甚七の隠れ家《が》でみた時、上の弟はじろりとお俊をみた。
「何《いず》れにしても逃れぬ罪だに、女々しい奴だ。」
こう云ってすぐ三人は帰途についた。
[#8字下げ]五[#「五」は中見出し]
江尻の宿へ泊った夜
[#ここから3字下げ]
酔うて伏見の千両松
淀の川瀬の小車は
輪廻《りんね》々々と夜をこめて
[#ここで字下げ終わり]
と、上方の流行唄《はやりうた》を聞いたので、呼上げた。お俊は何《ど》っかで見たような女だと思って、聞いてみると、お新であった。お新は三人が来馬を探していると聞くと共に、金入を出した。そして
「敵は山田で御座ります。」
と、主張した。お俊は勿論それを信じた。二人も一寸考えさせられた。然しその次には、お俊はお新と甚七との仲に嫉妬を感じるし、二人の男は
「来馬にも訊《ただ》し山田にも聞かぬ上
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