た。甚七の姿が、闇の中に立って、声が聞えると共に、このまゝ二人が捕えられてもいゝと思った。
「手紙をみた。有難いぞお新――お新、どうしてここへ、えゝ?」
そう聞かれると一番に浮ぶのは、美しいお俊の事である。
「お身は甚七に内通したな。」
と、云われた時の顔、女同士ですぐ判るお俊の心。
「江尻で皆さんに逢いました。」
「江尻で?――今日明日にはこゝら辺を通る筈だが――」
「お逢いなされても無駄で御座んす。」
「いや、身のあかりを立てさえすれば――」
「妾は何うなろうとも――」
途端に
「御用だ。」
躱《かわ》して
「命は助けるぞ、道案内せい、お新、一まず京へ参ろう、話は道々。」
篝火《かがりび》をたいている山下の村々。
「お前の袖と、わしが袖か――」
「旦那いゝお声で――」
「黙って案内しろ。」
[#8字下げ]七[#「七」は中見出し]
二人の流し。
「こういう生活もいいな。」
女にとっては
「これに限る――このまゝで居たい。」
だが、二人が流している時に、通りすぎる駕《かご》には勿論、お俊が乗っていなくてはならぬ。そして、二人が茶店へ呼ばれて上った奥の小間にはお俊がい
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