た。
「こういう姿で無いと昼間歩きもできぬ。丁度人目を胡麻化すにはいい伴《つ》れで。」
 お新は胡麻化し道具にされているのが口惜しいと共に、お俊は胡麻化されているようなのが口惜しかった。
 こういう場合、男女の何《いず》れにとっても最上の方法は三人共別々になる事である。
「何よりも先に山田を捕えて白状させなければ――」
「お新は一まず元へ戻り、お俊殿は山田の様子をさぐりに、私は京へ出て知らせを待つとしよう。」
「では途中まで――」
「いや、こうきまる上は、北国を廻って安全な道を、京の宿所《しゅくしょ》は妙心寺内。」
「そうきまれば、お新さんと私は――」
「いいえ、妾は一人で――」
「では、――御無事に。」
「妾は元へ戻りませぬ。」
「何うして?」
「さあ、何うなりますやら――お俊さま。」
 却説《さて》、山田某。女共の軽い口からちらちら洩れる噂も気になるし、折柄の坂本警護を、いゝ機《おり》に、彦根を出《いで》、江洲へ行った。お俊が戻ると共に、この事を知ったのは勿論である。そして、これも勿論その由を、すぐ京へ知らせるべく彦根を出た。それから、お新が、この女も勿論、山田が坂本へ行った事をさ
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