めし》を食べに茶店へ立寄った。馬上の主人は甚七が、徒歩でこの辺へまで来た頃と計っていたから、立場《たてば》の前で馬を並足に一軒々々覗いてきた。甚七のいる茶店の前へきた時に、丁度甚七は、厠《かわや》へ上っていた。
「こういう風の侍が通らなかったか。」
と子供に聞くと
「あの宿にいるよ。」
と子供が教えた。そして、其処《そこ》を尋ねている内に、甚七は、何も知らないで通りすぎてしまった。
この辺の地理をよく知っている、そして又甚七にうまく一杯かゝったと信じている彼はそのまゝ馬を返して、抜け道へ探しに行った。その間に甚七は渡しを渡り、村を越えて、東海道を下って行った。
「図々しくも金五両をたばかり。」
という文句と共に、すぐ彦根へきた。そしてお俊と、左門の弟とが桑名へ立った。
甚七が江戸へつくと共に、厚情を感謝してきた手紙で、彼の居所《きょしょ》はすぐ知れた。そして三人は江戸へ下ったが、着いた夜、お俊は二人の弟を出し抜いて甚七の所へきた。
「何《ど》うして?」
「貴下《あなた》は何も御存じないと思いますが、実はこれ/\」
甚七は暫く飽気《あっけ》にとられていた。然し、そう云うと、自
前へ
次へ
全14ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング