る内に
「無礼な。」
と、頭の中にうろ/\していた言葉が、つい口を出てしまった。
「無礼?」
「無礼だ。」
何も知らぬ来馬に対しては確に無礼であると共に、三人がこう聞くのも尤もな次第である。だが、勢こゝに来てはそのまゝで納らない。
「無礼とは――」
「帰れ。」
「何をっ――」
「馬鹿めっ――」
甚七は二人を斬った。一人は死んだ。そして彼はそのまま出奔《しゅっぽん》してしまった。
[#8字下げ]三[#「三」は中見出し]
何者かに殺された佐々木左門の弟が桑名に居た。甚七は心易い仲であったから、その足で、その家を尋ねた。
「詰らぬ事から、これ/\で――、わしはこれから江戸へ出ようと思うが、少しの旅費と、一夜の宿とを――」
「何をまた、甥などが――」
と、云って夜更けまで語り、旅費を与えて立たせると、一足ちがいに急飛脚が来た。
「父を討ったのは来馬らしく、その上、人を殺《あや》めて立退いたが、いろ/\相談もありすぐ来てくれ。又来馬立廻った節には召捕えて」
という文句である。主人はすぐ馬を呼んだ。そして、馬を走らせつゝ、五両も金を与えた事をいま/\しく思った。
甚七は午餐《ひる
前へ
次へ
全14ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング