」は中見出し]

 もし、その夜、来馬が町へ出て酒を飲んでいなかったなら
「くる、のくるは苦しいのくるで、来馬のくるでない。」
 で、突張れたし、家を出ないと証人に下僕も言ったであろうが、甚七《じんしち》は余り人に聞かしたくない家で遊んでいたから、三人が四角張って
「何処《どこ》へ、今頃――」
 と云った時、むっ、ともしたし、冷《ひや》っともしたし――それに第一、三人の態度が気に入らなかったから
「何処へ?」
 と、云ったまゝ、じろりと目をくれて
「水を持って来い。」
 と云った。
「少し、お尋ねしたい事があって――」
 と、一人は、丁寧に云ったが、来馬の態度に、腹の中は不快である。
「はゝあ、改まって――この深夜に。」
「何処へ、今まで行っていたか、明瞭《はっきり》と仰《おっ》しゃって頂きたい。」
「何故――妙な事を。」
「実は――」
 と、弟の云ったのを一人は目で抑えた。
「お包みなく云って頂きたい。」
「城下へ――」
「城下の何《ど》ちらへ。」
「一体、何を聞きに来られたのだ。君達から行方を聞かれるような――丸で罪人を問うような――」
 来馬は酒を飲んでいた。だから、そう云ってい
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