は一寸良心が二三分間疑を挟んでみるだけで、お俊《しゅん》始め、列座の面々はきっと自分の手柄に感謝するにちがい無い。だから
「本当ですとも。」
と、云い切ってしまった。
「来馬《くるま》では無かろうか。」
と、一人が一人にこっそり耳打した。そしてその一人は頷《うなず》いた。
「君が、何んと声をかけた時に、くる、と云ったのだ。」
と、もし聞く人があったなら、来馬への懸疑《けんぎ》はいくらか薄くなったかも知れぬが
「対手《あいて》は? 手懸りは?」
とばかりしか考えていない若侍共に、そうした探偵法は気がつかなかった。そして、耳打から、小声になり、一番思慮の無い男が
「来馬で無いか。」
と云うに到って事いささか重大となってきた。
「来馬に限って。」
と、云う人もあったが
「一応は聞いてみてもよかろう。」
と云う説も甚だ尤《もっと》もであって反対の余地はなかった。
「お俊とは昔恋仲だったと云う噂も――いや事実もあるからな。」
と、多くの人は、自分の説に根拠を置いた。そして、三人の選ばれた人、お俊の弟と、親族の一人と、来馬の相弟子とが、来馬の家へ向った。
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