も不思議ではない。いや、それどころかフランボーが、あの洋傘《こうもり》と紙包を持った、間抜面をした僧侶に、まとわりついて行こうとするのは実に明かなことだ。あの僧侶は誰の思いのままにもなりそうに見えるのだから。おそらく北極星のところまでも引張って行《ゆ》かれるだろう。それにフランボーは名うての名優だ。僧侶に変装して、彼をハムステッド公園に引っ張り出すぐらいお茶の子サイサイだ。犯罪のすじ道は既にはっきりしている。それに探偵にとってはあの僧侶も憐れまれてならない。彼はフランボーを面憎く思った。しかし、またヴァランタンは、彼をこの成功にまで導いて来た、今までの出来事を綜合してみると、何が何だか解らなくなって来た。一たいエセックス上りの僧侶から十字架を盗むということと、料理店の壁にスープをぶっかけることと、どういう関係があるのか? 栗を密柑と呼ぶことにどういう関係があるのか? それからまた、先に金を払っておいて、窓を破《こわ》すことに何の関係があるのか? 彼は追跡の功を奏し、そのどんづまりまで来た。しかも、いずれにもせよ遂にまた迷路の端に踏み込んでしまった。今までにもし失敗したとしたら(そんなこ
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