まった。
「大作さんのお引廻しかえ、本当に――」
「そうだろう。近ごろ、泥棒は無《ね》えし、火つけは無えし、引廻しなら、あの位のもんだ」
「もう一人、相馬大作が現れて、引廻しへ斬込むかも知れねえぜ」
「そうは行くめえが、一騒ぎ持ちあがるかもしれん。何んしろ、大作の師匠の平山ってのが、変ってるからのう」
「大作の門人も、黙っちゃいめえ」
人々は、走りながら、久しく見ない引廻しを見に走った。大通りは人の垣であった。どの町角も、町角も、一杯の人であった。屋根へ登っている人もあったし、二階から、天水桶の上から、石の上に、柱に縋りついて――
「見えた」
一人が叫ぶと、人々は背延びして、往来の真中へ雪崩れ出して、足軽に叱られたり――槍が、陽にきらきらしていたし、馬上の士の陣笠、罪状板が見えてきた。
「何んしろ、津軽の殿様を一人で、二人まで殺したって人だから、強いねえ。あの縄位ぶつと、力を込めりゃ切れるんだって」
「俺なんざ、毎晩女を殺してらあ」
「野郎、おかしなことを吐かすな。来たっ、来たっ」
大作は、馬上で、茶の紬の袷をきて、髪を結び、髭を剃って、少し蒼白くなった顔をして、微笑していた。
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