た。そら歩いた」
往来の人々が、笑って、集ってきた。
「その上、大の色男で、お歌がぞっこん惚れている」
女狩は人々の間に挟まれて、赤くなっていた。お歌がそっと後から
「これを――」
と、いって、財布を渡した。右源太は、握ってみて
(しめた)
と思うと同時に
(本当に惚れている)
と、心の底から嬉しさが上ってきた。そして、財布の重みで、大丈夫だと判ると
「参ろう。ここが迷惑致す。参ろう」
と、人々を振切るようにして、外へ出た。一人が
「大作逃がすな」
と、いって、右源太の袖をつかまえて、よろめきながら、ついて行った。
三十五
「相馬大作の、引廻しだとよう」
一人が、走ってきて、こう髪結床の中の人々へ、怒鳴って駈出してしまうと同時に、一人が、将棋の駒を掴んだまま、往来へ出て
「本当だ、走ってくらあ」
と、叫んだ。そして、叫び終るか、終らぬかに、子供が、男が、老人が走ってきた。
「引廻しだ」
「引廻しだ」
家の中から駈出してくるし、女が軒下へ立って眺めるし、髪を結っていた一人が
「親方よしてくれ。後でくらあ」
と、いって、半|結《ゆい》のまま、走って行ってし
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