役に立たんのが、ずい分いる。平山先生の如き――」
「全く」
 と良輔が頷いた。
「参ろう」
 大作は、残した物の無いのを確めてから、草の中を、静かに歩き出した。
「残念だ。津軽め、命冥加《いのちみょうが》な」
 良輔が呟きつつ、ついて行った。
「併《しか》し、わしも、命冥加だぞ」
 大作が、振向いて、笑った。

    五

「一足ちがいだった。残念な」
 女狩《めがり》右源太は、大声で、叫んだ。人々が、振向いた。
「警固、御苦労に存じます」
 右源太は、役人に挨拶した。
「いや」
 役人も、軽く頭を下げた。
「江戸から、大作を追うておりまして、ようよう手蔓《てづる》を握ったかとおもうと、取逃しまして――」
「ほほう、江戸から――」
 役人と、役人の周囲にいる木樵《きこり》、百姓が、一時に、女狩の顔をみた。
「拙者は、南町奉行附同心、女狩右源太と申します。役目によって大作の手に倒れました兄の仇討なり、又二つには、役の表によって――」
 右源太が、話している内に、役人も、あたりの人も、幾度も頷いた。
「大作を、召捕ろうと――それが、半日ちがいで、取逃すとは――」
「御尤《ごもっと》も――
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