」
右源太は、役人の脚元を覗いて
「それが、大砲で御座りますか」
「いかにも――」
右源太は、脚下へ、しゃがんで、大砲を叩いてみて
「紙?」
と、見上げた。
「紙らしく見受けますな」
「はははは、手遊びの――これは、嚇《おど》かしで、昔の楠公の――」
「めっそうな、お武家様。あんた、これで、この先一里余りの所にある御堂をめちゃめちゃに打ちこわしましてな」
「馬鹿らしい。それは、買冠《かいかぶ》りじゃ。余り、大作を恐れすぎている」
「いいえ、本当に――」
「その時は、青銅製で、嚇かしておいて、これで又、嚇かそうと、――元来、彼、相馬大作の先生、平山行蔵なる代物が、いかさま学者で、奇を売物にしているのだからのう」
と、いった時
「退け退け」
と、いう声がして、供を先に、後に、裏金陣笠の侍が、草の中から胸を出して、近づいてきた。
六
(埓《らち》も無い)
と、右源太は、山を降りながら、思った。
(相馬大作、相馬大作と、豪傑のように――来てみれば、左程でも無し、富士の山だ。紙の大筒など、子供欺しをしおって――万事、平山のやり方は、山師だ。玄関先に、堂々と、いかなる身分の
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