まった。

    四

「先生っ、言語道断」
 良輔が、叫んだ。
「何んとした?」
「道を変えて、逃げ走りました」
 大作は、草の中へ、立上った。
「道を変えたか」
「裏道へ」
「裏へ」
「何んとも申しようの無い卑怯《ひきょう》者。何うして、これが洩れましたか、それにしても侍共が、まだここへまいらんのは、幸で御座りますが、早く立退きませんと、いつ、何時まいるかと――」
「そうか」
 大作は、火薬の包を、大砲へ、抛出すように置いて
「矢張り、裏切者がいたか?」
「百姓らで、御座りましょう」
「それは判らんが――」
「先生、もし、役人が、来ましては」
「もう、追っつけ暮れるであろう。周章《あわ》てることは無い」
「折角の大砲が――」
「大砲は、また造れる。当節は、いろいろと苦心して造っても、学んでも、役に立たんことが多い。学んで、役に立つのは、流行《はやり》唄ぐらいのものだ。是非も無い」
「大砲は?――このままで――」
「真逆《まさか》、背負って歩く訳にも行かぬ、又、誰か、心ある者でも、発見したなら、工夫の役に立つこともあろう」
「よく出来ましたに、惜しゅう御座いますな」
「惜しゅうて、
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