、時々、人が通った。葉の間、枝の間から、ちらちらと、見えていた。
「先触れも、通りませんな」
「少々、遅いが――」
 人の影が見えると、二人は、津軽の行列の中の一人では無いかと、じっと、すかして眺めていた。
「外の道を、もしかしたなら――」
「そんなことは出来ん。無届で、参覲交代の道を変えることは、重い咎《とが》めになる」
「え、――降りて、見て参りましょうか」
「明日にでも、延びたか――」
「そんなことも――」
 大作は、大砲へ頬を当てて、もう一度、照準をきめてみた。半ヶ月前、半沢山から青面金剛堂を、打破ったので、大砲の偉力は十分に信じることができたし、自分の火術にも、十分以上の自信がもてる。
 大砲は、紙製であったが、良質の紙を重ね合せた固さは、鉄と同じくらいの固さをもっていた。大作は静かに、大砲の肌を撫でながら
「陽が、傾きかけたのう」
 と呟《つぶや》いた。
「その辺まで出て、様子を、見てまいりましょう。このまま――」
「よし、大急ぎで」
 良輔が、立上って、草の深い中を、手で分けつつ、走り出した。
「気をつけよ」
 良輔は、頷いたまま、すぐ木の中へ、草の中へ、見えなくなってし
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