浴びてきて、寝ましょうかの」
一人が立上った。侍は、頷《うなず》いただけであった。
三
「遅う御座いますな」
「遅い」
二人の潜んでいる草叢《くさむら》の草は、二人の頭を隠すくらいに茂っていた。そして、その上には陽の光さえ、洩らさないような梢と、葉とが、おおいかぶさっていたし、二人の周囲には、そうした大木が、一杯に並んでいた。
二人の横には、木の株を枕にして、大砲が置かれていた。筒口は、下を向いていて、その筒口の見当には、街道が、白く走っていた。
(この一発が、天下の眠りを醒《さ》ますのだ。ただ、南部の為に、津軽を討つというのではない。一つは、その為だが、二つには、領民のために、三つには、武士道のために――奢《おご》っている天下の人心を醒まして、ここに、真個《ほんとう》の武士あることを知らせるのだ)
関良輔は、そう考えて
「吃驚《びっくり》しましょうな」
「ふむ」
と、大作は、答えて、火薬の油紙包を、掌の上で、いじっていた。
「供侍のみでなく、天下が――」
「さあ――」
「先生も、お喜びなされましょう」
大作は、答えなかった。良輔も、黙ってしまった。
街道には
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