行附と申しますと――え、何かお召捕用で?」
「ま、そんなところだの」
 廊下に、足音が聞えると、障子が、開いて十二、三の女の子が、三人
 おばあ子、来るかやあと
 鎮守《つんず》の外んずれまで
 出てみたば
 と、叫んで、踊りながら、入ってきた。
「うるさい。もうええ」
 客の一人が手を振った。
 おばこ来もせで相馬の大作なんぞいかめ面《つら》。
「出てくれ」
 と、一人が、一文銭を、抛出《ほうりだ》した。女の子は、次の部屋へ唄って行った。
「ほほう、相馬大作なんぞ、この辺で、唄になっているのかのう」
「ええ、えらい人気で、御座りましてな」
「何時時分に、何《ど》の辺に、おろうな、聞かんかの」
「一向に」
「わしは、その大作を追うているが――」
「貴下《あなた》様が――へえ、そいつは、うっかり、踏込めませんぜ。宿で、泊めないなんてことが御座いますからの」
「何故」
「いえ、大作様を、生神様のように思っている奴がおりましてな」
「なるほど」
「それで、あんな唄まで、出来ましたが、旦那様、うっかりなさらんように――」
「忝《かたじけ》ない」
 侍は、腕組をした。
「何《ど》れ、もう、一風呂
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