が、道を開けた。
「脇差をとれ」
与力の一人が叫ぶと
「武士の作法を御存じか、それとも、縄にかけるか?」
大作は、佇《たたず》んで、じっと睨みつけた。右源太が
「刀は、あずかっております」
と、両手で、捧げてみせた。与力の一人が
「神妙の至り、一同、十分に警固して、このまま送れ」
と、叫んだ。右源太は
「重い刀だ、何うだ、誰の作か、判るか」
と、笑いながら、朋輩に話かけたが、朋輩達は、黙って、人々の波と一緒に、歩き出した。
(ざまあみろ。俺の手柄を見ろ。運のいい人間って、こんなものだ)
見知らぬ役人が
「よい度胸で御座るな。今日の手柄は、御身が第一。褒美が、たんと、出るで御座ろう。お羨ましい」
と、いった。一人の役人が
「その刀を一寸」
と、いって、そっと、鯉口を抜いてみた。朋輩の外の役人は、右源太の周囲へ集っていた。与力の一人が
「見事な刀だの、貸してみい」
と、声をかけて近づいた。右源太は
(もう、大丈夫だ。贋首を討ってよかった。本物が捕えられて、俺が、これだけ手柄をした以上、贋首と判っても、心配は無い。しかし、大作め白洲で、喋りはすまいか――いや、あれほどの豪傑
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