を致しておる。お出向きか、南か、北か?」
「双方からじゃ」
大作は、微笑して
「大勢、見えられたのう」
「神妙に致せ」
「はははは」
大作は、笑った。
「召捕れ」
門際にいた曾川が叫んだ。後方《うしろ》の方の役人が、得物を構えた。
「着替え致す間、猶予願いたい」
曾川が
「成らん」
と、叫んだが、真中の与力が
「誰か、ついて参れ」
と、叫んだ。
「狭いところゆえ、大勢は困る。両三人見届けに蹤《つ》いてくるがよい。誰がくるな」
大作は、いつもの鋭い眼で、見廻した。誰も、動かなかったし、答えもしなかった。
「踏込め、踏込め」
曾川の声であった。大作は、その声の方を見た。藤川が[#「藤川が」はママ]眼を外《そ》らしめた。
「その方」
と、大作は、前から二列目に、俯いている右源太へ、眼をやった。朋輩が、右源太の背を突いた。顔を挙げると、大作の眼が、じっと睨んでいた。右源太は、さっと、蒼くなって、膝頭が顫えてきた。
「その方、いつか、国許で、逢うた仁じゃのう、顔見知りに、ついて御座れ」
朋輩が
「行けっ」
と、背をつついた。
「怖いか?」
「何?」
大作が
「心配すること
前へ
次へ
全71ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング