大作の住居の、隣町まできた時、行く手に待っていた北町奉行の人数が挨拶にきた。そして、表と裏と、町の抜け路――要所要所に、人数が配置された。
 役人は、騒ぎ立てようとする町家の人々を、低く叱り、眼で制して、大作の道場の方へ近づいた。武者窓に縋りついていた人々は、役人の姿と、近づいてくる同心衆の十手を見ると、周章てて逃出した。二三人の同心が、人々の逃げてしまった武者窓へ近づいて、顔を出すと、一人の門人が立上ってきて
「何用か」
 と、怒鳴った。道場の中の門人達は、一斉に、窓の方を眺めていた。その正面にいる大作は、暫く窓の方をみていたが
「これまで」
 と、叫んだ。役人は
(大作は、感づいたな)
 と、思った。そして、右腕を揚《あ》げた。
「役人か」
 と、二三人の門人が叫んで、窓へよると共に、門人達は、一時に、立上った。役人は、身体を引いて
「油断すな」
 と、叫んだ。十手、突棒、袖がらみなどを持った手先、足軽が、門から雪崩れ入った。それと同時に木戸口から、門人達が出てきた。
「妨げすな」
 と、走ってきた役人が叫んで、得物を構えて、立止まった。
「妨げすな、決して――」
 真先の門人は、
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