って、その志を鼓吹したのだ。湊川の悲壮な戦――七百騎で十万騎と戦った十死無生の、あの合戦。この悲壮な合戦、この凄愴な最期があったればこそ、正成の志は万古に生きることになった。人は、この戦を思うと、楠氏の志は必ず、思出す。即ち、正成の志は元弘、建武の御代を救うにあっただけでは無く、万代、人の道を教えるのにあったのだ」
門人達は、頷いた。
「拙者の志は、正成公と、比較にならん位小さい。然し、一死以て、君国に報じるだけの決心は致しておる。何時召捕られる身かしれぬ拙者として、皆に申残しておきたい。第一のことはこの心掛けじゃ。碌々として生を貪る勿《なか》れ。三十にして死すとも、千載に生きる道を考えよ、と、これ平山子龍先生の教えにして、又、拙者自ら、いささか行うたところの道である」
大作は、よく澄んだ大きい声で、説いて行った。徳川二百年の間に、比類無き、放れ業をした関係から、目の当り、その志を聞いた人々は、身体を固くして、聴入っていた。
武者窓から覗き込んでいる小僧、町人、職人達は、耳を傾けたり、一心に大作の顔を、よく見ようとしたりしていたが、門人達の静粛なのを見て誰も、一言も口を利かなかっ
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