顔色を変えて、布団へもぐった。そして
(いよいよきた)
 と、思った。

    二十八

「何故、正成は、死んだか? 討死をしたか? 死なずにすむ戦であったか、免《まぬが》れぬ戦であったか、は、別の論議としておいて――」
 大作は、師範席の上へ、布団も無しに端坐して、書見台を前に、道場の板の間に坐っている人々を見廻しながら、講義をしていた。
「つまるところ――身を滅ぼして、志を千載に伝えるという心懸けからであった。もし、正成が、尊氏|謀叛《むほん》の前に――即ち、功成り、名遂げて、病死してしまっていたなら、正成の一生としては、仕合せであったであろうが、果して、千早挙兵の志が、今日の如く伝わったであろうか。ここだ――」
 外は、明るい陽であったが、高い、狭い武者窓からしか入って来ない光に、道場の中は、静かに、落ちついていた。門人達は、膝一つ動かさず、咳一つせずに、聞いていた。大作は
(いつ、召捕らえられてもいい、誰かの胸に、このことは、刻まれるであろう)
 と、考えていた。
「正成は、それを知っていた。だから、河内の一族に、十分、後のことを頼んでおいて、自らは、大義大道のために、死をも
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