、気も、腕も強い。本当に、あの時は、恐ろしかった。大作は、江戸でも人気者だが、江戸で、彼奴を討取ったって、誰も、俺を殺しはすまい。お祭り騒ぎをしているだけだからなあ――一つ、大作を、討取るか? 本物の大作を――)
右源太は地下で苦笑し、憤っている、兄の顔を想像したが
(兄の意気地無しめ――俺を、恨む度胸があるか?)
右源太は誰よりも、勇気があって、誰でもしている位の誤魔化ししかしていないのに、一寸したことからでも、手柄を覆《くつがえ》そうとしているらしい人々に、腹が立ってきた。
(大作が怒るのは尤もだ。檜山のことなど、奉行所へ訴えたって、勝てるものでは無いからな。お裁を見ていたって、町人には厳しいが、少し羽振りのいい、旗本だと、邸内の博奕《ばくち》位は、皆大目に見ている。それが今の時世だ。俺が、大作だったって、津軽を殺すより外、腹のもって行きどころが無いだろう。大作がえらいって――当り前だ。あいつ一人が人間らしいのだ)
右源太が、こう考えてきて、自分の運命のことを忘れかけた時
「女狩」
と、表に呼ぶ声がして、戸が叩かれた。召使の爺が
「はい」
といって、開けに行った。女狩は、
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