こが判らん」
「判らずに――」
「いいや、大作は、中々の腕だからのう、世の中には、似た者が、いくらもあるし――」
右源太は、膝を立てて
「贋首《にせくび》だと申すのか」
と、怒鳴った。
「怒っては困る」
「不届ではないか? 上のお眼鏡まで、汚すではないか」
右源太が、こういった時、襖を開けて、足早に入って来た一人が
「昨日の大作は、本物でないぞ、あいつは、大作の弟子の関良輔という人物じゃ」
「ええ?」
右源太は、微笑した。そして
(俺は運のいい人間だ、そうだろう。大作が、のこのこと江戸をうろつくものか、津軽とて、黙って見逃してはおくまいし――何うだ。うまく行く時には、うまく行くものだな)
右源太に反感を、疑惑をもっていた朋輩は、顔を、一寸赤くして
「関良輔?」
「うむ」
「奉行所で聞いたのか?」
「聞いてきた。追っつけ此処へも、回状がくるであろう」
「ふうむ」
朋輩は、腕組をして俯いた。
「相馬大作が一人でないことは、南部まで行かんと判らん。大名相手の大仕事を、一人や二人で出来るものかを考えずとも、判りそうなものじゃ」
右源太は、静かにいった。右源太を、平常から軽蔑してい
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