て行った。
二十三
曾川甚八は、右源太を睨みながら
「聞いたであろうな」
「はい」
「何んと申訳する? 上を欺いた罪――」
「いえ――」
「黙れ。その方の申し分を信じて、お上へ取次いだる拙者の面目、何んとなると思いおるか? 拙者を盲目にして、お上を欺いて――」
曾川は、拳を顫わして、声を大きくしてきた。
「恐れながら――」
右源太は、真赤な顔を挙げた。
「お言葉を返して恐入りますが、手前――昨日捕えられました大作は、似而非者《えせもの》と心得まする?」
「何?」
「或は、手前の討取りましたる大作が、似而非者で御座りますか――その辺、いかがかと存じまするが、相馬大作なる者は、三人も御座りまして、何れが本物やら――いろいろと南部領にて、取調べますと、判らないところが御座ります。白沢の駅で大銃《おおづつ》を放とうと企てたのが、真正の大作か、渡し舟のが、当の本人か、どうも、出没自由にて、稀代の曲者と心得ます。手前の、討取りました大作も、その中のたしかに、手前の兄を殺しましたる、大作に相違御座りませぬが、外にも、どうも大作がいるらしく――それゆえ、大作を一人とお心得下されまして
前へ
次へ
全71ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング